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業務上横領被害に遭った時の対応

業務上横領罪とは

企業内で起こることの多い犯罪であり、企業の財産を業務上従業員が着服したようなケースが、典型例です。

法的には、業務上自己の占有する他人の物を横領したときに成立する犯罪です(刑法253条)。

業務上横領罪で逮捕され、起訴された場合、10年以下の懲役に処せられます。

 

横領罪との違い

業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役とされ、横領罪のそれは5年以下の懲役とされています。

 

業務上横領罪が(単純)横領罪よりも刑が重くされているのは、業務者であることによる責任非難の増大というところにあります。

 

業務上横領罪の構成要件

業務上横領罪が成立するためには、①業務上の占有、②他人の物、③横領行為、が必要となります。

 

① 業務上の占有

一般的に、業務とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われるものをいいますが、業務上横領罪における業務とは、その性格上、金銭その他財物を委託を受けて保管することを内容とする職業もしくは職務をいいます。

平たく言いますと、委託を受けて物を管理・保管することです。

そのため、銀行や官公庁において職務上金銭を保管する行員や公務員は勿論、質屋、倉庫業者、一時預かり業者もあたります。

 

他方、管理権限のない従業員が会社の資産を自分の物にしたような場合は窃盗罪になり得ます。また経費の水増しで会社から水増し分を受け取っていたような場合は詐欺罪になり得ます。

 

業務上の占有とは、業務を有する者が、その業務の遂行として他人の物を占有していることをいいます。業務上の占有には、業務上の地位に基づく包括的な委託信任関係によって当然に物の占有が行われる場合と、委託者の個別的な委託行為を介して、物の占有が行われる場合があります。前者の例は銀行や官公庁で行員や公務員が職務上金銭を保管する場合、後者の例は質屋や倉庫業者が質物を預かるような場合、です。

占有については、横領罪とほとんど同じです。ここでいう占有は事実的支配のみならず、法律的支配も含まれます

業務行為の範囲を逸脱して占有していた物については、業務上の占有とはいえません。

 

② 他人の物

こちらも横領罪とほとんど同じく、不動産は財物に含まれますが、電気は財物に含まれません。

 

③ 横領行為/不法領得の意思

自己の占有する他人の物について不法領得の意思を実現する一切の行為をいいます。売買、贈与、質入れ、着服などです。

不法領得の意思とは、委託された任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を意味します。

業務上横領罪の典型例として、会社から預かっているお金又は会社が管理している物品を自分に使う行為は不法領得の意思として横領行為になります。

その他成年後見人が立場を利用して、成年被後見人の財産から現金などを着服した場合も業務上横領罪となります。

 

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業務上横領罪は親告罪?

結論から言いますと、横領罪は原則親告罪ではありません

しかし、業務上横領という犯罪の性質上、被害者以外に被害があったことを知るのは困難といえます。そのため、実際は、被害者が刑事告訴を行うことで警察が捜査を開始するというのが一般的です

 

親族相盗例が適用される?

犯人と被害者の関係が、配偶者、直系血族、同居の親族であった場合には、親族相盗例が適用され、刑が免除されます。これら親族関係にあてはまらない場合は、刑が免除されずに、被害者が告訴をした場合のみ処罰対象、いわゆる(相対的)親告罪となります。この場合、犯人に刑事責任を問いたい場合には、刑事告訴が必要となります。

 

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親族が成年後見人であり、横領行為をした場合は?

成年後見人がその立場を利用して、成年被後見人の財産から現金などを着服した場合は業務上横領罪に問われるとご紹介しました。

一般的に、成年後見人の任に就くのは、弁護士や司法書士といった専門家のみならず、親族であるケースもあります。

親族であり成年後見人である者が成年被後見人の財産から現金などを着服した場合はどのようになるのでしょうか。

この場合、配偶者、直系血族、同居の親族であっても、成年後見人であれば親族相盗例は適用されません。つまり、刑は免除されず、業務上横領罪に問われることになります。

 

なぜなら、親族相盗例は「法は家庭に入らず」という考えによりますが、成年後見人は裁判所から選任され公的な職務を行うため、公的な職務に反して横領した場合の方を罰すべきと考えられているからです。

 

業務上横領被害の対応策

まずは事実調査のうえ、業務上の横領被害が遭ったことがわかる証拠の収集が必要不可欠です。

ただし、会社で生じた業務上横領では本人が弁護士を付けて否認するケースも多く、そうなると刑事事件として立件する場合には「その本人が横領した」という確たる証拠がない限り、かなりハードルの高い犯罪でもあります。

実際、会社側が横領の被害額として出してきた金額を見ると、本人も知らないような使途不明金が大量に含まれており金額が(会社側も意図せず)水増しされているケースも多々あります。

その一つ一つの損害額について、当該従業員の横領行為によって被った損害であることまで会社側(刑事事件では捜査機関側)が立証しなければいけない点がハードルの高さの所以です。

 

その後、刑事告訴をするのか、被害弁償を求めるのか、労働の面から解雇するのか、どれを採るのかはケースバイケースですし、会社の方針にもよります。

 

刑事告訴をする

横領被害に遭った場合は、犯人を刑事告訴することができます。業務上横領罪の事項は7年です。

刑事告訴が受理されると、警察による捜査が行われ、犯人に刑罰を負わせることができる可能性があります。

ただし、横領事案では刑事告訴の受理までには高いハードルがあり、専門的な知識が求められますので、犯人を罰したいとお考えの方は弁護士に相談することをお勧めします。

最終的に刑事告訴をするかどうかは、警察とも相談しながら、客観的な証拠をもとに、受理の可能性、捜査機関による被害金の認定額などを十分に考慮して決めるのが一般的です。

 

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被害弁償を求める

刑事告訴以外にも民事上の損害賠償請求を行うことができます。

横領被害金が高額になるようなケースでは、一括での弁償を受けることができない場合がほとんどです。分割払いということであれば、強制執行認諾文言付公正証書を作成しておくことをお勧めします。

 

執行認諾文言付公正証書は、民事訴訟で勝訴判決を得なくても、強制執行を行うことができますので、民事訴訟に対する労力と時間、費用を考えると有効といえます。

 

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懲戒解雇する

横領をした従業員とはもはや雇用し続けることはできないと考え、懲戒解雇に至るケースもあります。懲戒解雇をするには就業規則に懲戒解雇ができる旨の規定が必要です。また、不当解雇にならぬよう要件が整っているかを確認してから解雇しないと、不当解雇として地位確認訴訟等を後々従業員から起こされる可能性もあります。

一方で、横領発覚から解雇までのタイムラグが生じることはよくあります。その間にも会社は従業員(犯人)に給与等を支払う義務が生じますので、横領をしたから給与を支払わないというような対応をすると、逆に従業員側から未払い賃金を求めて訴訟を提起されることも考えられます。

そうならないためにも、懲戒解雇をする際には、適正な手続に従うことが重要です。

 

業務上横領被害に遭ったら弁護士にご相談を

業務上の横領被害に遭ったら、会社としてはとても大きな損失といえるでしょう。

それゆえ、一時の感情に任せて、あれこれ思い付きで行動してしまうと、逆に会社側の損害を拡大されることにもなりかねません。

まずは冷静に事実調査を行い、できる限り多くの証拠を集めることが大切です。

そのうえで、どのような対応が採れるのか、刑事告訴をした場合の受理の可能性や被害弁償の回収可能性などについて、弁護士に相談することをお勧め致します。

当事務所では、相談の段階から、具体的事情をヒアリングし、今後の対応策などについてアドバイス致します。

業務上横領被害に遭われてお悩みの方、業務上横領で刑事告訴または被害金を回収したいがよくわからない方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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