刑事事件を円満解決へと導く示談の重要性と必要性

刑事事件において、加害者と被害者の間で示談(じだん)が成立することは、事件の進展やその後の処理に大きな影響を及ぼします。示談は法律的に必須ではありませんが、特に被害者の感情や加害者の処遇に関わる重要な役割を果たしますし、加害者にとっても、不起訴処分獲得につながる最も大きな要素となります。
今回は、刑事事件における示談の重要性とその必要性について解説します。
刑事事件における示談とは?
刑事事件における示談とは、被害者と加害者が話し合いによって和解し、被害者が損害賠償金(示談金)や加害者からの謝罪を受け入れることで、紛争の解決を図る手続です。示談の結果は「示談書」として書面化され、法的効力を持ちます。この示談は、裁判の判決や捜査の進行に影響を与える可能性があるため、慎重に進める必要があります。
示談の法的根拠・判例
日本の刑法や刑事訴訟法において、示談自体を直接規定する条文は存在しません。しかし、刑事訴訟法第248条は、「犯情が軽微と認められる場合その他情状により起訴猶予が相当とされる場合」には検察官が起訴を行わないことができると規定しています。
示談が成立し、被害者の許しを得て被害回復が進んでいることは「情状」として考慮され、結果的に不起訴処分や執行猶予判決につながる可能性が高くなります。
実際に、示談の成立を量刑上有利な事情として考慮した判例として、最高裁判所昭和48年7月10日判決(刑集27巻6号622頁)などが挙げられており、示談は被告人等にとってもっとも重要な弁護活動の一環となっています。
示談の重要性
刑事事件には、犯罪によって被害者がいる事件と、いない事件があります。
示談イコール不起訴処分となるわけではないものの、前科の有無・示談書の宥恕条項等の内容・犯罪の性質次第では非常に強く不起訴処分獲得に影響します。
とりわけ暴行・傷害、窃盗などの比較的軽微な犯罪の場合には、示談の成立は不起訴に非常につながりやすいとされています。さらに、親告罪(親告罪とは、告訴がなければ起訴できない犯罪を指し、名誉毀損罪や侮辱罪、器物損壊罪などが該当します。)の場合には、示談にて告訴取下げの条項を設けることが出来れば、起訴する要件である告訴を欠くため、基本的には不起訴処分となります。
1 被害者の救済
被害者にとっても、事件後の不安や怒りなどの感情を抱えたまま刑事手続を進めるよりも、示談により早期に補償や謝罪を受けることで、刑事裁判に参加しなくて済んだり、警察への協力や呼び出し対応等、煩雑な事件の手続から解放されるなど、精神的負担が軽減するというメリットがあります。これにより、被害者の処罰感情が和らぎ、当事者間の関係が解消されやすくなります。
2 加害者の刑事処分への影響
身柄の早期解放
逮捕され身柄拘束された場合、起訴前勾留、起訴後勾留と続いていきますが、いずれのタイミングでも身柄が解放される可能性はあります。
身柄が拘束されるのは、逃亡のおそれがあること、証拠隠滅のおそれがあることから判断されます。
被害者との示談が成立すれば、加害者自身がした行為に対する反省と謝罪の意思のみならず、被害者に対する損害を賠償する意思を示すことにもなります。そうすると、加害者(被疑者又は被告人)は逃亡や証拠隠滅のおそれがないものと判断され、身柄が早期に解放される可能性があります。
不起訴処分
刑事事件の流れとして、逮捕されてから48時間以内に検察に送致され、さらに24時間以内に勾留されるかが決まります。その後、検察官からの取調べや捜査資料に基づき被疑者を起訴するか不起訴にするかが決まります。
事件が軽微な場合や初犯である場合などは起訴するに足りないと判断され起訴猶予となることもありますが、起訴するか不起訴にするか迷うようなケースでは被害者との示談成立が一つの大きな判断材料になります。
執行猶予・情状酌量
示談が成立し、被害者が加害者を許した場合、刑事裁判においてその事実が情状酌量の理由として認められることがあります。これにより、刑罰が軽減される可能性があるため、加害者側にとっても重要な手続です。
示談交渉の進め方
(1)弁護士を通じた交渉
刑事事件の示談交渉は、警察からも被害者へも加害者へも直接の連絡は行わないように指示されるのが通常ですから、基本的にはいずれかが弁護士をつけて弁護士を代理人として進めます。
被害者との間に感情的なしこりがある場合も多く、当事者同士だと話がまとまらないことが少なくありませんし、警察からも示談するなら弁護士に依頼してと言われることが実務上多いです。
加害者が直接被害者に連絡することで被害者が怖がって更に警察に連絡して逮捕(被害者も「人証」として証拠の一つですので、被害者に不当な接触行為を行っているとみなされると逮捕される確率が上がることがあります。)となるリスクがありますし、加害者が直接交渉を行うと被害者としても被害感情が増悪し、相場以上の金額を要求されることにもなりますが、弁護士を通じることで、冷静かつ適正な条件で交渉を行うことができます。
(2)示談金や謝罪文などの条件
示談の具体的な条件としては、以下のようなものが考えられます。
- 示談金(慰謝料・治療費等の実費を含む)
- 謝罪文・念書の提出
- 再犯防止のための誓約書
- 被害者への接触禁止の取り決め
示談金の額や取り決めの内容は、事件の態様や被害の程度、被害者の意向などによって大きく異なります。示談金の支払方法や支払期限についても明確に定めることが重要です。謝罪文についても、被害者側から不要と言われることも多く、内容面でも更に被害者の怒りを買うケースが多いので、一方的に送りつけるようなことはせずに慎重に要否を検討しなければなりません。
(3)示談書の作成
合意に至った場合には、示談書を作成します。示談書には、当事者双方の氏名・住所、示談金の額、支払方法、支払期限、その他付随する条件や再請求をしない旨など、合意内容を詳細に記載し、署名押印を行います。
示談書には法的拘束力が生じるため、内容はよくよくきちんと検討して締結してください。
示談する際の注意点
刑事事件における示談を慎重に進めるためには、弁護士の介入が必要不可欠です。
示談の条件や示談書の作成は、後のトラブルを避けるためにも、弁護士に依頼した方が賢明でしょう。また特に刑事事件では、被害者と接触すらできませんので、そもそも当事者同士で示談をすることは現実的に不可能です。さらに示談するタイミングによっては事件の処理に影響を与えることもありますので、弁護士による迅速な弁護活動が必要です。
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まとめ
刑事事件における示談は、被害者の救済のみならず、加害者にも大きなメリットをもたらします。しかし、感情が絡む場面も多いため、弁護士のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。
当事務所では、これまで多くの刑事事件における示談を成立させ、不起訴処分を得てきました。刑事事件でお困りの方は、お早めに当事務所までご相談ください。
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